契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 それに踵にリボンの付いたサテンの揃いのヒールまで用意があって、それはカタログ撮影で使ったものだ、とスタッフはにこにこしている。

 本当に服が好きでそれを着ている人を見るのが好き、と言う気持ちがたくさん伝わってきて、美冬はこの会社を守れて良かった、と心から思うのだ。



 祖父が指定した店は祖父の馴染みの懐石料理で、一昔前まではいわゆる一見さんお断りで政治家などが接待で利用するような店だ。

 今はそこまで厳しくはないと聞いているけれど、それでもふらっと気軽に入れるような店ではない。
 美冬もこのようにきっかけがないと来店しないお店だ。

 槙野はいつものように美冬を会社の前まで迎えに来てくれた。
 華やかなワンピース姿の美冬を見て、槙野は目を細める。

「綺麗だな」
「ありがとう」
「服が」

──ぶん殴っていいかしら?

「服も、だな。そんな可愛い顔して見るなよ。キスしてほしいのか?」
「会社の前だからダメ」
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