契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「なるほど、会社の前じゃければいい、と」
 その頭の回転の早さは別のことに使ってほしい。

「どうぞお姫様」
 槙野が美冬のために助手席のドアを開けてくれる。

 それに免じて、美冬はぶん殴るのは止めにしてあげたのだった。

「『くすだ』か、久しぶりだな」
「昔よりは敷居が高くないとは言うけどやっぱり庶民が気楽に行けるお店ではないものね」

「そうだよな。それにお祖父さんが予約してくれた個室はいわゆるVIPルームだからな」
「そうなの?」

 槙野の言葉通り、仲居さんに案内されたのは門をくぐってお店の中に入ってから、迷子になりそうな廊下をぐるぐるとまわって、何やら奥の方の日本庭園を望むことができるお座敷だった。

 挨拶を済ませると祖父がどうぞと勧めてくれたので、外の庭が見える席に座らせてもらった。

「ホント。素敵ね」
「この部屋はなかなか使えないからな」

 そんな風に会話を交わしている槙野と美冬を祖父はにこにこしながら見ている。
 美冬は祖父に笑顔を向けて首を傾げた。
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