契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 メイドインジャパンの高級婦人服はそれなりに固定客がいて『ミルヴェイユ』はデパートでの店舗展開と、本店だけは路面店での店舗展開をしているのが現状だ。

 経営状態は決して悪くはない。
 けれども伸びてもいない。

 むしろ、ゆっくりと右肩下がりなのが、美冬には気にかかっていた。

 祖父は今も元気で健在であり、経営権は一切手放してはいないので、美冬はいわゆる雇われ社長という立場である。

 地元の経済界ではある程度顔が利き、会長職に引いたとはいえ社内でも絶大に影響力のある祖父だ。

 そんな祖父の入院……!?
『あの……ですね美冬さん……』
 受話器の向こうから伝えづらそうな祖父の秘書の声がした。

 美冬は一瞬覚悟を決める。
『それが……大変いいづらいのですが……』

 ごくり、と自分の喉の鳴る音が聞こえた。
(もしかして……命に関わるようなとんでもないことが……)

『その、骨折……でして』
 その後に続いた秘書の言葉を聞いてあやうく美冬はスマートフォンをぶん投げそうになったものである。
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