契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 槙野も社員全員を把握しているわけではないから、池森を知らなかったのだが、スマートなスーツ姿に塩顔というのかイマドキのすっきりした顔立ちのさわやかな好青年だった。
 槙野に対して物怖じしないところもいい。

 デスクの前にある応接セットに座らせると最初は物珍しげにきょろきょろしていたけれど、槙野が問い合わせした件で尋ねると、よく覚えているのか、池森は頷いた。

「ああ、エス・ケイ・アールですね」
「エス・ケイ・アール……」

「もともと新規のアパレル企業でしたけど、アグレッシブに経営したいと言うので、ファストファッションのブランドを店舗展開した会社です」

 手元の資料を見ると、この『ミルヴェイユ』という会社とは経営方針も何もかも全く違う気がする。

 槙野は手元の資料を池森に見せてみることにした。

「『ミルヴェイユ』知らないなぁ。うわ、これはまたエス・ケイ・アールとは全く違う会社ですねぇ」

「なるほど……」
「僕もアパレルを初めて担当したんですけど、いろいろ奥深くて面白い世界なんですよ。例えば男性もので言ったらワイシャツとかですね。槙野さんはオーダーですか?」
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