契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「俺はイージーオーダーというのを利用しているな」
「僕はパターンオーダーです。フルオーダーのシャツがいくらするかご存じですか?」
 槙野は自分のシャツを比較して概算する。

「3~4万じゃないか?」
「はい。もちろんそのくらいのものが一番多いんでしょうけど、僕が知ってる最高値は12万円です」
 槙野からしたら3~4万でも高いと思う。

「思ったより高い」
「分かります。僕もそう思いました。でも工程を聞くと納得なんです。裁断する前に布を水に浸して乾かしたものをカットしたり、業務内容に合わせて裁断するそうです」

「水に浸す理由はなんだ?」
「洗うことを想定しているからです。出来立ての生地を水にぬらすと必ず変形するので、それを想定してあらかじめ濡らして乾かしたものをカットする。顧客の業務内容に合わせてカッティングを工夫する。オーダーでなくてはできない世界ですね」

 槙野はこのような仕事をしているせいかすぐに費用対効果というものを考えてしまう。

「それだけの価値があるということか?」
「あるんでしょうね。あこがれだし、いつかそういうものが頼めるような身分になりたいなあと思います」
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