契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 納得して、けれどそんなことに負けるような槙野ではない。

 先方もしっかり槙野の話を聞いて了承はもらったものの、なんだか不穏な気がした槙野だった。

 あまりの迫力に押されて失念していたが、こういう時に槙野の勘が外れたことはなかったのだ。

 ◇◇◇

 コンぺ当日、『ミルヴェイユ』からは三人の人物が参加していた。

 男性一人と女性二人。
代表者が女性であることは知っていたけれど、その中でも最も若い女性が代表だったのは意外だった。

 ふと、片倉を見ると全く動揺はしていないので知っていたような気がする。

 企画の内容は甘くてとても使えるようなものではなかったし、槙野の質問にもしどろもどろになってしまって、代表者の女性はそもそもそういう場には慣れていないんだろうと感じた。

 それでも、おっ……っと思ったのは片倉に『次があれば』と言われたときにその女性社長が
「今頂いた宿題を必ずお持ちします」
と片倉をまっすぐに見返したところだ。
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