契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 面白くない仕事かと思ったけれど、こういうところがあるならば悪くない。

 プレゼンが終わって会議室の外に出たときだ。
「槙野さん」
 槙野に声をかけたのは、オブザーバーとして参加してもらっていた木崎だった。

「はい」
 槙野は足を止めた。腕を組んだ木崎が槙野に近寄ってくる。槙野の前に立った。
 当然のことながら彼女は全くひるむことはない。

 身長の高い槙野に顎を上げ、話しかけてくる。

「ミルヴェイユには価値があります。50年も続いているアパレルブランドなんて数少ないんです。椿さんを助けて差し上げてくださいね」

「彼女次第でしょうね」
 事務的に返した槙野に木崎は目を細めた。
「では彼女にバックがついたらどうなのかしら?」

「どういう意味です?」
「業務提携。全く違う企業だから意味があると思うのだけれど」

 木崎は『ミルヴェイユ』と業務提携してもいいと言っているのだ。
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