契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「なぜそんな……」
「一つにはミルヴェイユは私にも憧れのブランドだからよ。そしてもう一つは……そうね、今日の夜、お時間を頂けないかしら?」

 そう言って妖艶に見つめられたものの、その木崎の目の奥が冷静だったことを槙野は見逃していなかった。

 一体、何を企んでいる?
 木崎に呼び出されたのはおしゃれなバーだ。そこで散々飲まされたのだ。槙野はアルコールには強いほうなので、なんとかそれにはついていったのだが……。

 ──つぶそうとしてないか!?

 意識が朦朧とし始めた頃だ。
「お母さまっ!」
 大福だ。大福が話している。

「こちらの方が私の結婚相手ですか?」

 ちょっと待て……だれが大福の結婚相手だ……?大福と結婚するのは大福か?いや、大福じゃないな、人か?女性?
 なぜ、俺の方をじっと見ている!?ロックオンされてないか?

「そうよ、綾奈ちゃん。ステキな方でしょう?」

 木崎社長の聞いたことのないような猫撫で声だ。お母さまというからには娘なんだろう。
< 58 / 325 >

この作品をシェア

pagetop