契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 確か名刺はあるはずだがと胸ポケットの名刺入れを出したら、さっと顔の前に書類をかざしている。

 なんだ?大事なものじゃないのか?
「どうした?」
「……いえ、なんでもないです」

 名刺入れから名刺を出し美冬に渡すと美冬はバッグを足元に置いて、名刺を受け取った。

その所作が綺麗できちんとしているんだな、と槙野は微笑ましくなる。

 名刺を確認した美冬はただでさえ零れそうな瞳をさらに大きく見開いていた。

 その顔には副社長だったの!?と大きく書かれてあるのだ。

 おびえるにしても、驚くにしても美冬は表情が本当に感情豊かで見ていて飽きない。

「全部、感情が顔に出ているぞ」
 そう言うと、美冬は慌てて頭を下げた。
「す……すみません」

「まあ、とっても怯えてたみたいだが? 一応こんな肩書きなんで良かったら見るけど? その胸に大事に抱えてる企画書」

 見てほしいなら来いと言った。美冬は断るかと思ったら、ててっと槙野についてきたのだ。
< 62 / 325 >

この作品をシェア

pagetop