契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「真剣だな」
「え?」

 そう話しかけたらきょとんとして槙野のことを真っ直ぐ見つめてくる。
 年より若く見える顔立ちで、色素が薄いのか焦げ茶色の髪と焦げ茶色の瞳がとても綺麗だ。

 いつも元気で明るそうな美冬のきょとんとした目をくりっとさせた顔はやけに愛らしかった。
 よくよく見ると目だけではなくて、ちょん、とした鼻も綺麗に口紅を付けた唇も配置が素晴らしく整った顔の部類に入るのではないだろうか。

 ふっと美冬はうつむいた。
 その綺麗な顔が見えないのは残念なように槙野は思う。

「そうですね。いろいろ事情もあるんですけど。今まであまり経営とか考えてこなかったんだなって今回ひしひしと思います。私はミルヴェイユのお洋服が好きなので」
「へえ? どの辺が?」

「金額設定が高いってことは分かっているんです。でもちょっと特別な時にちょっと特別なおしゃれがしたいって絶対にあると思うから。そんな時に気分を上げるファッションであってほしいの。それに価格に見合うだけの作りなんです」

 好きなもののことを瞳をキラキラと輝かせながら話をするのについ槙野は目を引かれる。

「なるほどな」
 槙野は少し口角を上げる。そうしてテーブル越しに美冬を真っ直ぐ見た。
「事情ってのはなんだ?」

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