契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 祖父はにこにこしながらじっと二人を見ている。
「今日はどうした?」
「結婚相手を連れてきたのよ」
「ん? 結婚相手?」

 祖父は後ろにいる槙野を覗き込む。槙野が頭を下げたのが美冬の視界にも入った。

「おじいちゃんが言ったんじゃないの。結婚しないのか、彼氏はどうしたってこの二年で私百回は聞いたわよ!?」

「お前百回は盛り過ぎだろう……」
「盛ったわ。でも五十回くらいは言ってるでしょう」

「それで? 連れてきたわけだ?」
 祖父は面白そうな顔をして美冬と槙野を見ていて、全く信じていないように見える。

 槙野はまるで好青年のような笑顔を祖父に向けた。

 それには美冬は感心してしまう。
(すごいわ、やればできるのね)

「はじめまして。槙野と申します」
「美冬の祖父です」
 にこりと笑った槙野は祖父に名刺を渡す。祖父は名刺に目を走らせて槙野に向かって笑った。

「すまないね。今名刺は手元になくて」
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