契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「いえ。こちらこそ病院にまで押しかけてしまい大変申し訳ございません。美冬さんがどうしてもおじい様には会わせておきたい、と言うので」

 祖父は名刺をデスクの脇にそっと置く。
「美冬がそんなわがままを」
「おじいちゃんのせいだって」
「で、どこで知り合ったって?」

 完全にスルーされたので美冬はふくれて面会者用のソファに座る。祖父にソファを指さされた槙野は頭を下げて、美冬の隣に座った。

 すらりと長い足を見て、嫌味のように足が長いわ……と美冬は思う。

「ミルヴェイユが弊社のコンペに参加されて、その際発表をされていた美冬さんに僕が一目惚れしたんです」

 そんな美冬の気持ちにはお構いなしで、槙野は感じよく話を進めていた。
 しかし、それにしても、だ。

(僕!? 生まれて初めて聞いたけど!? 槙野さんが僕!? 猫被るのには程があるでしょ)

 黙って肩を揺らして笑う美冬に隣にいた槙野は最初は先ほどのようにほっぺたを引っ張ろうとしたようだが、それはさすがにできなくて額をとん、と指で突かれた。

「美冬、笑いすぎ」
「だって……」
「美冬? 面白いのか?」
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