契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 祖父は不思議そうな顔で美冬に尋ねる。

「面白いわ。普段と全然違うもの」
「緊張すると言っただろう」

「まあ……普段とは、違うだろうな」
 祖父は腕を組んでにやりと笑った。

「『グローバル・キャピタル・パートナーズ』の槙野くん? 君のことを知らないとでも思ったか?」
「僕の方は存じ上げてます」
 急に話の流れが変わって美冬は驚く。

 知り合いではなかったようだけれど、お互い存在は知っていたようだ。
「私も知っとるよ。最初はどんなつまらん男を連れてきたかと思ったら、まさか黒狼(こくろう)とはね」

「こくろう……?」
 首を傾げた美冬に祖父が説明してくれる。
「裏でのあだ名みたいなもんだな。黒い狼だよ」

「あら、ぴったり」
 美冬は横に座っている槙野をつい見てしまう。鋭くキリリとした目元も、隙のない雰囲気も狼と呼ばれていたとしても違和感は感じない。
「そんなあだ名、認めた覚えはないんですがね」

 そう言って口を開いた槙野から不遜な気配が漂ってきて、美冬はあ……いつもの槙野さんだ、と思う。笑顔でも肉食獣なのは隠せない気配。
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