契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 一瞬口から心臓が出そうになる美冬だ。
「やあね、おじいちゃん、そんなわけないじゃない」

 横を見ると今度は槙野が肩を揺らしている。
 くすくすと笑うその顔が楽しそうで……悔しいけど魅力のない人でもないわ。

 美冬も素直に魅力のある人物だと認めることができない。最初の印象があまりにも悪すぎたのだ。

「とにかくおじいちゃんそういうことなの」
 だから社長は辞めないから。
 そう言おうと思った美冬に祖父が口を挟んだ。

「美冬、式はするんだろうな?」
「当たり前よ。槙野さんもそこは分かってくれてるもの」
 ね?と美冬は首を傾げる。

 それにも鷹揚な雰囲気で微笑んで槙野は頷いた。美冬のわがまますら可愛くて仕方ないという感じだ。
「俺も美冬の花嫁姿は見たいしな」

──あっま……。

 眼光鋭く人を殺そうかというような視線で見る人なのかと思ったら、恋人にはとても甘い人なのかも知れない。
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