契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「ごめん!」
 慌てて美冬は槙野の腕に絡ませていた自分の手を外した。

「いや? しかしすげー緊張した。さすがに迫力あるな」
「そう?」
 美冬にとっては祖父だけれど、槙野にはまた違う気持ちがあるのかもしれなかった。

「ところで……誰が大根だって?」
──んんっ?

「ヤァネ、オジイチャン、ソンナワケナイジャナイって、ドン引くほど棒読み」
 槙野が美冬の真似をして笑うから、赤くなった美冬は槙野の肩をポンッと叩く。
「もうっ! やめてよっ」

「これからまだ、美冬ん家の家族にも挨拶はあるぞー」
「槙野さんのお家にもねっ!」
「頼むぞ、大根ちゃん」

 くっそー!言い返せないのが悔しいわっ!
 しかも楽しそうなその笑顔なんなのよっ。
 ちょっと……素敵じゃない。ちょっとだけだけど。

「なんか腹減ったな……」
 槙野はお腹を抑えて俯いていた。確かに夕食の時間はとっくに越えている。

「なにか食べる?」
「仕事を残してきてるんだが。まあ、今さらそんな気分でもないな。メシでも行くか?」
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