契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 いつも槙野がほっぺたを引っ張ろうとするので、美冬は槙野の腕をつんつんつつく。

 すると、槙野に笑顔を向けられた。
「多少は乗ってもいいぞ。それくらいには可愛いからな」

 二人のやり取りに女将さんはくすくす笑って席に案内する。そしておしぼりで手を拭いていた美冬の左手に目をやったのだ。

「あら? 指輪もまだなのね?」

 指輪もまだの婚約したてなのねと、そう言われて美冬と槙野の二人は顔を見合わせる。

「忘れてたわ」
「いるよな?」

 契約書の作成やお互いの家への挨拶などに夢中になってしまって、婚約指輪の存在を忘れていた二人だったのだ。



 カウンター席に案内されたので、槙野は美冬の隣に座っている。その近い距離に美冬は戸惑うのに、槙野は全く平気な顔をしていた。

(それはそうよね。好みじゃないんだから。私だって好みじゃないもん)
 槙野がふと肩を寄せてお品書きを見せてくれる。

「嫌いなものはあるか?」
「ううん」
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