契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「お前さぁ、俺に襲われてパクって食われちゃったらどうすんの?」
 美冬の寝ているベッドに腰掛けて、すやすやと眠る彼女の唇をふにふにと指でつつく。

 その時美冬の口から声が漏れたのだ。
「それは食べちゃダメ~……私のだって……」

 槙野は笑ってしまった。
「どーゆー夢みてんだよ、お前は」
 こんなに可愛くて愛おしい存在になるなんて思わなかった。

「そうだな、もしお前を食べるとしたらこんな状態じゃなくて、しっかり意識もあって、絶対に忘れられない状況でさせろよな」

 そう言って槙野が美冬の頬を撫でたら、なんだか迷惑そうに眉間にシワを寄せているので、もう本当に槙野は笑ってしまった。

 今日は美冬の祖父に挨拶に行き、そのまま食事に行って帰ってきてしまった槙野だ。まだ仕事が残っていたから、槙野はそれを自宅の作業スペースで確認していく。

 少し経つと「槙野さん……」と美冬が起きてきた。
 寝起きの美冬もぽやんとしていて、愛らしい。

 抱き上げて連れてきたことを気にしているから、重かったとからかったら、ささっと早足で寄ってきて、真っ赤な顔でぺんっと肩を叩かれた。
 その恥ずかしそうな顔も可愛い。
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