契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「槙野さん、あのっ……」
「なんだ?」
「そういうの、する?」

 槙野はにっ、と笑った。きらりと光った目が美冬を射抜くように見る。

 わぁ!怖いってばー!

「てか、逆になんで何もしないと思うんだ?」
 当然のようにソファに押し倒されて、美冬は脱力する。

 そうだわ……この人、そういう人だったぁ!

「抵抗しねーんだな?」
「今更しない」

 槙野はふっと笑って、美冬の頬を撫でる。
「お前のそういう潔良(いさぎい)いところは俺は好きだけど、痛い目見ないかと思うと心配でもある」

 好……きとか心配、とか。頬をするっと撫でるとか。
 そういうの、こっちまですごくドキドキしちゃうから、困る。

 契約だって言ったくせに、好きとか言われるのは、本当に……困るのだ。

「痛い目なんて、合わないよ」
「だって、美冬はこんなに簡単に押し倒せるし、細くて華奢で……」

 さっきまで腕がちぎれるとか言っていたくせに。
 急な女の子扱いには、なんだか……戸惑う。
< 97 / 325 >

この作品をシェア

pagetop