契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「は?」
 そういうの聞き返す?

「だから、したことないってば」
「お前……処女なの?」
 何度も確認するのは本当にやめていただきたい。

 はーっと槙野から聞こえてきたため息は本日何度目だろうか。
 もういっそ契約でため息を禁止してほしいくらいだ。

 槙野は頭の上で抑えていた美冬の手を離した。
「したことない人をその……処女って言うんだよね?」

「まあ、そうだな」
「……したことない」
 苦笑して槙野は美冬の頬を両手で包み込むようにする。

 その整った顔がとても近い。
 いつも、キリッとしていて人を射抜くような瞳の持ち主で、けれどとても整った顔だ。

 それが美冬だけを見つめて、その顔が近づく。
 そっと重なった唇は思ったよりも優しかった。

 美冬の頬と耳元を指で触れて、何度も何度も唇を重ねる。
 その感覚も唇もとても心地よい。
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