雨降り王子は、触りたい。
「…いない」
のえるはギリギリ聞こえるくらいの音量でそう零すと、追加で頼んだオレンジジュースに、口をつける。
「のえる、初恋もまだだもんね〜」
「…ちょ、和佳ぁ!」
和佳の言う通り、のえるは現実世界で恋をしたことがないと、中学の時言っていた。
それから高校生になって、いまだにのえるから聞く話は、他の人の噂話や、漫画の中の話。
それか、自分の理想の王子様の話。
イケメンで、紳士で、優しくて、力持ちで…その項目は覚え切れないくらい多い。
「初恋…ね」
膝をついた三咲が、だるそうに呟く。