雨降り王子は、触りたい。
◇
体育が終わり、外にある水飲み場にやってきた。
グラウンド近くにあるウォータークーラーは大抵並ぶから、私はいつもここへ来る。
案の定今日も、ここには誰の姿もなく静かだ。
蛇口を捻り喉を潤す。
テニス、楽しかったな。
のえるの打ち返した球、ラケットを振った方向と真逆に飛ぶし、ラインギリギリに入るし、意外と手強くてほんと笑った。
「ふっ」
思い出し笑いを漏らす。
そして緩んだ口元をタオルで拭っていると。
「お疲れ〜絃ちゃん」
静かな空間にゆるりと響いた声。
「…市川。」
現れたのは、体操服を着ていることに違和感のあるチャラ男だった。