雨降り王子は、触りたい。
今朝声を掛けられたことを思い出し、私は眉を顰めた。
目の前の市川はいつも通りへらへらと笑顔を浮かべていて、怒っている様子はない。
…よし。このまま穏便に会話を終わらせて、去ろう。
「あ、あー、私もうここに用事ないから、じゃあ…」
「ねぇ絃ちゃん」
わざとらしく笑った私の言葉は市川によって遮られた。
そして市川は、なぜかずいっと体をこちらに寄せる。
え、なに………?
私の目の前に立った市川に目を見張ると。
「俺がさ、なんで絃ちゃんに絡むと思う?」
「え…」