雨降り王子は、触りたい。
……そっか。そうだよね。
キス、だって。経験しててもおかしくないよね。
だけど、そんなこと考えたことがなかったから。
苦しさに耐えきれなくなった私は、思考を停止させた。
「それで、留衣くんから逃げちゃって。ずっと私、気にしてたの」
無意識的に目線が、萌絵ちゃんの口元へと吸い寄せられる。
ツヤツヤで、薄ピンク。
濃い赤のリップとか選びがちな私とは、全然ちがう。
「とにかく、これからは私が留衣くんのそばにいる。体質も、なおす。」
萌絵ちゃんの鋭利な視線が、私に突き刺さった。
「……だからもう、近づかないで。留衣くんに。」
私は逃げるように、ストローに口を付ける。
スッキリしたくて頼んだはずのコーラは意外と甘くて、まとわりつくような気鬱な味がした。