雨降り王子は、触りたい。
廊下にはじゃれあう男子や、腕を組んで歩く女子が点在しているけれど、私にはもう周りなんて見えない。
近付いてくる足音に、全ての神経が集中する。
するとその音は、私のすぐ後ろで止まった。
「……なんで避けんの?」
背中にぶつけられた直球な言葉に、ぐっと口を紡ぐ。
相変わらず私は上履きと睨めっこをしたまま、顔を上げることができない。
「………別に避けてないよ」
やっと絞り出した言葉は、"素直"とはかけ離れたものだった。
避けまくってるくせに。
私の、嘘つき。
だけど本当のことを言ったって、何にもならない。
私の気持ちは、迷惑なだけ。
ぎこちなく振り返ると、そこにはまっすぐにこちらを見据える三咲がいた。