雨降り王子は、触りたい。
「どうしたの?可愛い子2人も連れて」
市川は今日も今日とて、へらりとチャラい笑顔をこちらに向ける。
ついてきたのえるは、一目見て市川が要注意人物だと判断したのか、サッと和佳の後ろに身を隠した。
「電子辞書忘れて、借りに来たんだけど…」
「3人とも?」
「ううん、私と和佳」
「んー、じゃあ俺貸してあげるよ」
市川はそう言うと、自分の席から電子辞書を持ってきてくれた。
…優しいとこあるじゃん。
「ありが…」
何の疑いもなく、手を伸ばすと。
「はい、和佳ちゃん」
「は」
スッ…と、市川は私の前を通り過ぎる。
私の手は、虚しく宙に浮いたまま固まった。