極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
 ピアノの鍵盤をさわって軽く音を出しながら翔一郎さんが言う。手つきが慣れているけど、経験があるのだろうか。

「鞠香はピアノが好きだろう?」
「どうしてわかるの?」
「……なんとなくそんな雰囲気がした。弾いてみる?」
「いえ、残念だけど、無理です。小さいころは習っていたけど、もう……」

 ロンドンではピアノをはじめとしてヴァイオリンや歌、スイミングや乗馬など、いろんな習い事をしていた。
 でも、両親が離婚して日本に帰ってきてからは全部やめてしまった。正直なところ生活に余裕がなかったのだ。

 ピアノの前に座った翔一郎さんが、横に立つわたしを見上げて微笑んだ。

「じゃあ、まず私が何か弾いてみようか。好きな曲はある?」
「えーと……」

 わたしは考えこんでしまった。
 昔よく聞いた思い出の曲が聴きたいのだけど、曲名を覚えていない。
 仲良しの誰かがいつも弾いていたような……。

 わたしがうんうんとうなっていると、

「鞠香が思い出すまで適当に弾いているよ」

 翔一郎さんが静かに指を鍵盤に置いてピアノを奏ではじめた。

 テンポの速い綺麗な曲だ。
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