極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました～一途な海運王の華麗なる結婚宣言～

　翔一郎さんの指が鍵盤の上を跳ねるように行き来する。

「あ、この曲」

　まさに、わたしが聴きたいと思っていた曲の一つだった。

「ショパンの『子犬のワルツ』だ。知っている？」
「ええ！　懐かしい」

　子犬が跳ねまわっているような、楽しくてうきうきする曲。
　年上の友達がよく弾いてくれた。子供のわたしはその少年の弾く『子犬のワルツ』が大好きだったのだ。

「ピアノもお上手なんですね」

　翔一郎さんはプロのピアニストになれるのではないかというくらいうまかった。
　長い骨ばった指が白と黒の鍵盤の上で踊るように動く。美しい音色がなめらかで繊細な指の動きから生み出される様は、まるで魔法みたいだった。

　最後まで弾き終わった翔一郎さんが部屋の隅に控えていたスタッフに合図を送る。すると、スタッフがもう一脚ピアノ用の椅子を持ってきてセッティングした。

「え、まさか……」

　いたずらっぽく笑った翔一郎さんがわたしの手を引く。

「おいで。連弾しよう」
「そんな、無理ですって」
「座っているだけでもいいよ。ピアノを弾いている気分を味わえるだろう？」