極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
『一生懸命練習しているからかな?』
『マリカもピアノは好きなんだけど、先生みたいにうまくできなくていやになっちゃうの』

 叱られた仔猫みたいにしょんぼりと落ちこむマリカ。

『先生も最初は下手だったんだよ』
『ショウおにいちゃまも?』

 無邪気であどけないマリカ。

『うん。僕も全然できなかったよ』
『そっかあ。ショウおにいちゃまが練習してうまくなったなら、マリカもレッスンがんばろうかな』

 常に人より優れていなければならない。弟よりも、同級生よりも、親族の子供の誰よりも。
 そして、弱みを見せてはいけない。つけこまれそうな隙などあったらたちまち蹴落とされる。馬鹿にされ侮られる。

 そういう醜い足の引っ張りあいの中で俺は生きてきた。幼いころから虚勢を張って実際よりも自分を大きく見せることで、己の価値をなんとか保ってきた。
 そんな俺みたいな汚らしいやつをマリカは澄んだ目で見あげる。俺を信頼して憧れの目で見てくれる。

『僕はマリカがとてもかわいいと思う。自由で素直で、ただの僕を信頼してくれるだろう?』
『ただの僕ってなぁに?』
< 111 / 252 >

この作品をシェア

pagetop