極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
 少し離れたところから、給仕をしていたクルーが駆けつけてこようとしているのが見えた。

 あーあ、クルーズ一日目から騒ぎを起こしてしまった。

 わたしにワインをかけた女性とそのお仲間は素知らぬ顔で近くに立っている。わたしの醜態をおもしろがっているようだ。ちょっと意地悪だなあ。

「……!」

 その時、周囲のざわめきが大きくなった。
 女性たちもフロアの奥のほうを見て、ささやきあっている。

「あら、あれは……」
「……様! 一夜目からお会いできるなんて幸運だわ」

 わたしの様子をうかがっていたたくさんの人々がさっと左右にわかれ、舞台のランウェイのように道が開けた。

 その花道を映画の主役のように悠然と歩いてくる人がいる。

 モデルのような長身。引き締まった体を高級なタキシードで包み、大きな歩幅でこちらに向かってくる二十代後半くらいのアジア系の男性。
 興味津々な視線にもまったく臆することなく、注目を浴びることに慣れているように見える。

 わたしのそばまで来ていた船のクルーが胸に手を当て、その人にうやうやしく挨拶する。
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