極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
 鞠香はもういとけない少女ではない。手の届かない空想の世界の女神でもない。
 俺の腕の中で戸惑い震える生身の女なのだ。

「――待たせてすまない、鞠香」

 俺はたかぶる想いを必死に抑えて鞠香のもとに歩いていった。
 内心は荒れていたが、きっと俺は平然としているように見えるだろう。俺のことをよく知る将生以外の人間には。

 鞠香と将生がこちらに気づいた。
 にっこりと笑って小さく手を振る鞠香と、笑顔の仮面を貼りつけた将生。

「やあ、兄さん。兄さんの留守中の鞠香さんの護衛はばっちりだよ」
「護衛? 何言ってるの、将生さん」
「いや、なんでもないよ。僕も水着を持ってくればよかったなー」
「そうよ、見てるだけなんてつまらないじゃない。今度は一緒に泳ぎましょう?」

 将生は天真爛漫に自分を誘う鞠香に少し苦笑して、ちらりと俺を見た。

「あー、そうしたいのはやまやまだけど、さすがに兄さんに殺されそう……」
「今、なんて?」
「ううん、気にしないで」

 親しそうな二人の会話。
 俺といる時よりも年相応にリラックスして見える鞠香の姿。

 唐突に限界が訪れた。
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