極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
 この激情の正体がわからないのだろう。そして、意味不明な情動をぶつけられても厭わない程度には、俺を信頼してくれているのかもしれなかった。

「すまなかった」
「…………」
「……少し冷静になりたい。今日の午後は――今夜も戻らないから、部屋でゆっくりしてくれ」

 俺は手のひらの中の小鳥を手放すかのようにそっと鞠香から離れ、うしろを向いた。
 そのままプールから出ていく。

 鞠香。
 これまでも俺は本気だった。
 きみを手に入れたかった。

 けれど、今はもっときみが欲しい。
 心も体も、すべて。





 俺はそのままセレブリティクイーンの最下階に向かった。

 スロットマシンやポーカーテーブルの並ぶカジノの横に、厚い扉で閉ざされたシガーラウンジがある。
 世界各国の葉巻と紫煙に合う酒が用意されたバーで、昼も夜も愛煙家が集まっている。
 イギリスのアンティーク家具に囲まれた書斎のような空間だ。

「何か……カクテルを頼む」

 カウンターチェアに座り、グラスを磨いていたイギリス人のバーテンダーに英語で話しかけると、彼は静かに俺を見た。

「どのようなカクテルがお好みですか?」
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