極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
「そうだな。ジンベース、強めのショートカクテルで」
「承りました」

 俺は葉巻も紙巻き煙草もたしなまないが、ここならば鞠香も来ないだろう。シガーラウンジにはもちろん女性の愛煙家もいる。だが、ほとんどの客は男で、紳士のメンバーズクラブのようになっていた。

 長いため息を吐き出す。

「こんなに自制できないなんてな。俺はガキか」

 バーテンダーがちらりと視線を寄越したが、オーダーとは違って日本語のつぶやきだ。意味はわからないだろう。
 カウンターの奥で酒をステアしていたバーテンダーが、やがてカクテルグラスを差し出した。

「どうぞ」
「これは?」

 逆三角形のグラスの中には暗いオレンジ色の酒が注がれている。定番のマティーニあたりが出されるかと思ったのだが、違うようだ。
 顔を近づけるとやや甘い香りがした。

「『Kiss In The Dark』、辛口にしてあります」
「ありがとう」
「恋は厄介なものですね」
「ああ……、そうだな」

 俺の表情に何かを察したのかもしれない。鋭い感覚だ。いや、それだけ俺の態度があからさまなのか。
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