極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
 わたしがふれてほしいのは翔一郎さんだけだ。
 こんなことなら刹那の関係でもよかった。
 クルーズの間だけの数日間の『花嫁』でもいいから、彼にすべてをもらってほしかった。

 そうだ……、やっとわかった。
 とっくに覚悟なんかできていたんだ。

「翔一郎さん」

 身に着けた服を脱いで素肌にふれること。
 わたしにとって、それは虚飾を取り払った素の心にふれること。

 翔一郎さんの心にふれたい。そして、わたしの心にふれてほしい。
 ほかの人じゃなくて、あなたに。

 ――だけど。
 もう、無理なの?

 床に転がされて汚れた頬に涙がこぼれた。





「…………!?」

 目を閉じたわたしの唇をオリバーさんが奪おうとした、その時――。
 リネン室のドアがバタンと大きな音を立てて開いた。

「鞠香!」

 声が。

「……え?」

 わたしに覆いかぶさっていたオリバーさんが引きはがされる。
 重い男に押しつぶされていた体がすっと軽くなる。うとましい熱が去り、いつの間にかにじんでいた汗が部屋の空気に冷やされる。

「翔一郎、さん?」
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