極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
「ありがとう……」
「いや……遅くなってすまなかった」

 手足が自由になると、わたしは翔一郎さんに抱きついた。
 翔一郎さんは体をこわばらせて、わたしを受けとめる。まるで驚いた大型犬みたいにフリーズしていた翔一郎さんは、ふうっと大きく息を吐き出した。

「ごめん。俺も抱きしめたいんだが……今、力加減ができなくて、きみを壊してしまいそうなんだ」
「壊れないから……。ううん、壊してもいいから、抱きしめて」

 声がかすれる。泣いてしまいそうで。
 翔一郎さんは一瞬息を呑むと、わたしの背中に腕を回した。

 強く、強く抱き返される。

 彼の胸の中にすっぽりとおさまって、やっと助かったのだと実感した。
 たくましい肩の厚み、スーツ越しに伝わってくる体温。汗と埃の匂いすらも愛しい。

「……鞠香」
「しょう……」

 翔一郎さん、と返事をしようとして、ふと思考が止まる。

 ――昔。
 まだ小さな子供だったころ。

 こんなふうに息を切らせて、必死に走って追いかけてきた少年がいなかったっけ?
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