極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
 ――それでも。

「鞠香、私はきみを……」

 翔一郎さんがもう我慢しないとばかりに滴らせる、視線と声の甘さ。まだ慣れなくて、どぎまぎしてしまって……。
 そのお砂糖をまぜた蜂蜜みたいな空気を変えたくて、わたしは慌てて話を変えた。

「そういえば! 翔一郎さんはわたしが捕まっている場所がどうしてわかったの?」
「…………」
「だって、それが不思議で。普通はバックヤードなんて知らないでしょう?」

 わたしがオリバーさんに無理やり連れていかれたのはカジノの従業員用の通路。ゲストが入ることは決してないリネン室だ。
 翔一郎さんは余裕を崩さず、ちょっと誇らしげに笑った。

「カジノに入り浸っているような男なら、あのあたりに隠れるだろうと思ったんだ。客は来ないし、クルーもそれほど頻繁には出入りしない場所だ。セレブリティクイーンのラフな設計図はだいたい頭に入っているからな」

 船の話をする時は少年のようになる翔一郎さん。
 でも、彼をごまかせたのはそこまで。翔一郎さんはすぐに年上の男の人の顔に戻った。

「話を戻すが……」
「えーと」

 照れくさくなって、さらに別の話題を探そうとしたけれど思いつかない。
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