極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
 それでもわたしは母から父の悪口を聞いたことがない。

 母は父と結婚したことを後悔していないのだろうか。

「実は鞠香に一つ、謝らなければならないことがある」

 翔一郎さんが改まった口調で言った。

「謝らなければならないこと?」
「ああ。旅行代理店のホームページで鞠香を見つけたあと、鞠香を取り巻く環境について一通り調べた。きみがどんな状況にいるのか心配だったからだ」
「はい……」
「その時にお父上の件も報告を受けた。花野宮氏は今、東京にいる」

 父が、東京に。
 翔一郎さんの言葉にわたしは目を見開いてしまった。
 もう十数年会っていない父がまさかそんな近くにいたなんて。

「ロンドンの会社が倒産し、保証人になっていた彼も同時に破産した。もちろんお父上のせいだけではないが、信頼も財産も失った彼はすべての手続きを終えたあと、東京でひっそりと働きはじめた」
「でも、父は一度もわたしに会いに来てくれなかった……」

 翔一郎さんはテーブルの上で手を伸ばし、わたしの手を握った。

「彼は一人でつましく暮らしている。その収入のほとんどはきみの養育費として送られているはずだ」
「え……?」
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