極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
 甘い低音でささやき、オペラグローブに包まれたわたしの手を取って指先にそっと口づける。

「何を……」

 指先にキスなんてもちろんされたことはないし、フィクションの中でしか見たことがない。こんな貴族みたいなことをする人が現代にいるんだ……。

「私がきみに頼みたいことは、ただ一つ」
「あ」

 そうだ、この素敵なドレスには交換条件があるんだった。しかも、条件を聞く前に着てしまっているし!
 どうしたらいいだろうと内心焦っていると、海堂さんがにやりと人の悪い笑みを浮かべた。

「私の恋人になってほしい」
「こ……こい!?」

 恋人!?
 偶然クルーズ船に乗っただけの一般人が、いきなり海堂ホールディングスの御曹司の恋人になるの!?

「ニューヨークに到着するまでの八日間だけでいい」

 いや、違った。本物の恋人になるのではなくて、八日間の期間限定で恋人のふりをするのよね。
 別に愛の告白をされたわけではない。落ち着いて、鞠香。落ち着くのよ。

 わたしは深呼吸をして海堂さんの目を見つめた。

「それはどういうことです? 意味がよくわかりません」
< 34 / 252 >

この作品をシェア

pagetop