そんなの関係ないよ!
亨兄は努力した・・・確かに努力したのだ。でも、結局陸上では才能が出なかった。毎回、レースに出ても、よくて地方本選4位。これでは、陸上でのスカウトは受けられない。

部活を引退した中3の夏休み。亨兄は私の家に来ていた。

「あ~あ。高校では、バスケでもすっかな~」

ため息とともに亨兄が言う。気がつけば、亨兄の身長はゆうに180cmを超えていた。

「陸上、辞めちゃうの?走るの好きじゃなかったの?楽しくなかったの?」

私は、亨兄に詰め寄った。

「亜里沙、好きだけじゃ、すまないんだよ、スポーツの世界は。僕には、スプリンターの素質はなかったんだ。でも、僕はジャンプ力あるし、機敏だし、バスケの授業じゃ結構いい線行ってるんだ」

「そう、なの・・・?そんなに簡単にあきらめていいの?」

「簡単じゃない!!悩んで、悩んで、悩みぬいたんだ。今までだって、陸上をあきらめようと思ったこと、あったさ。お前には、そういうところ、見せられなかっただけ。一生懸命、応援してくれてたからな。亜里沙の応援があったから、ここまでがんばってこれたんだ。ありがとな」

亨兄が哀しく笑う。そっか。つらいんだ、亨兄も、陸上あきらめるの。

「亨兄が、バスケやりたい、って言うんだったら、私、応援するよ。・・・はい、これ、私から」

それは、段ボールを切ったものに金の折り紙を貼って、穴をあけてリボンを付けた、私なりの亨兄への金メダル。亨兄、3年間、陸上よくがんばりました、の金メダル。

「・・・亜里沙、ありがとう。金メダルもらうなんて初めてだ。大切にするよ」

亨兄が涙ぐんでいた。

「不格好でごめんね」

「そんなことないよ。亜里沙は器用だし、それにな何より、丁寧に出来てる。ホント、ありがとう、な」

「ううん。亨兄、元気出してね」

「僕は、元気だよ」

哀しげに言う亨兄に、私は座っていた亨兄を思いっきり抱きしめた。

「とおる兄・・・何があっても、私がとおる兄を守ってあげるからね」

心から、そう思っていた。まだ小学校3年生だったけれど、いっちょまえに母性本能があったらしい。

「ばぁか。僕が、お前を守るの。・・・でも、そう言ってくれてありがとな」

真っ赤になって、亨兄が言った。そして、私のおでこにチュッ、とキスをした。

今度は、私がゆでだこになる番だった。

「なっ、なっ、なっ・・・」

「唇へのキスは、亜里沙がもう少し大人になってからな。じゃ、またな」

私をこんなにドキドキさせて、亨兄はそのまま颯爽と家へと帰ってしまった。
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