離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 その上、無理やり暁斗を昼食に連れ出そうとし、食堂でその女性に会わせようと考えているのも見え見えだった。

 その女性と院長の息子である暁斗が上手く行けばいいと福原は考えたのだろう。
 暁斗は福原の思う壺にハマるのは絶対に嫌だと思っていた。思っていたのだが、初めて食堂で凛音に会った時に暁斗は思い出した――あの時の子だと。

 

 暁斗が九王総合病院で研修医として勤務していた7年前、25歳の頃だ。

 その日の勤務が終わり着替えも済んだ暁斗がエントランスに向かっていると、ロビーで見舞客だと思われる男性がふらつきながら歩いている事に気が付いた。
 遠目でも顔色も悪いのがわかる。目で追っているとついに倒れ込みそうになり、暁斗はすぐに駆け寄ろうとしたが、暁斗より早く男性に気付き、身を挺して庇った女性がいた。

 彼女は大柄の男性を支え、半ば下敷きになりながら『大丈夫ですか!?すみません!誰か手を貸してください!』と大きな声で叫んでいた。

 暁斗はすぐにその女性を救出し、気を失った男性を適切に横たえてから外来に走り、看護師を呼び状況を説明し、他の医師に引き渡したのだった。
 男性は持病が出てしまったらしく、幸いすぐに意識が戻り、大事には至らなかった。

 暁斗がロビーに戻り、男性の無事を伝えると、心配そうに待っていた彼女は『良かった』と心底ホッとした表情をした。
 そして『売れ残りなんですけど、助けて貰ったお礼です。ありがとうございました!』と、袋に入ったパンを暁斗に差し出して来た。
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