離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 自分は覚えていたのに彼女は自分の事を全く覚えていなかったことなど残念に思っていないし、全く気にしていない……はずだ。

 だからその後、食堂で引き合わされる機会が増えても、他の女性にするのと同じように凛音にも接していた。

 代々の医師家系に生まれた暁斗は当然のように医師を目指し、そして自ら進んで心臓血管外科医となった。
 快方に向かい元気になる患者をみるとこの仕事を選んでよかったと思う。
 だが、全ての患者がいい結果になる訳ではない。最善を尽くしたつもりでも目の前で命が失われた事は何回もある。
 その度、暁斗は自分の無力さや医療の限界に打ちのめされる。しかし、その気持ちを昇華するために次の現場に向かう。その繰り返しの日々だ。

 医師というプロとして他人に仕事を任せられない性格で、自分のペースを他人に乱されるのが嫌だった。

 20代の頃はそれなりに女性と付き合ったことがあったが、仕事を優先するあまり、相手を放置し過ぎて長続きしたことが無かった。

 結婚は相手を尊重して思いやる事が必要なことくらい分かっている。だから、それが出来ない自分が結婚など出来るはずが無いし、するつもりもなかった。
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