離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 院内でも彼女を見る目が好意的な方に変わってきている。男の医師や看護師の事を考えると私服では病院に来ないで欲しい。
 しかし、当直の暁斗に夜食を届ける凛音にいちいち制服に着替えろとも言えなかった。

 自分から特別何かを望まない凛音が『犬が飼いたい』と言った時の自分の言動について暁斗は今でも後悔している。

 そういえば、彼女は銀座の歩行者天国ですれ違う犬を微笑ましそうに見ていた。そんなに好きなら飼えばいいと思った。自分も犬は嫌いではない。むしろ好きな方だ。
 しかし、テレビに映る柴犬を見て悶えている彼女を見て『俺以外、彼女に可愛がられるのは気にいらないな』という愚か過ぎる考えが咄嗟に出て来て、暁斗は思わず『難しい』と言ってしまった。

 彼女の寂しそうな顔を見て激しい罪悪感を覚え、自分の子供じみた独占欲に呆れた。

 翌日、あの台風の日、バチが当たったのか暁斗は朝から頭痛を覚えていた。
 疲れもあり、オンコールも無い安心感から眠りが深くなってしまったのだろうか、凛音からかかって来た電話に気づけなかった。

 暁斗を起こしたのは義弟、遼介からの電話だった。

 このシスコン気味の義弟は初めて顔を合わせた時から自分に敵意を隠さない。
 しかも凛音もこの世で一番この男を大切にしている――彼の為に好きでも無い男の妻になるくらいに。
< 105 / 170 >

この作品をシェア

pagetop