離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 まずいと思ってすぐにこちらから掛けてみたが、呼び出し音が鳴り続けるだけだ。
 暁斗が焦り始めると、今度は家の電話が鳴る。出ると、凛音の上司である定岡博美からだった。

 彼女は九王での勤務歴が長く、事務的な事で彼女より知識のある人間はいない。外科の専属クラークをしていた事もあり暁斗にとって信頼できる存在だ。

『剣持先生?凛音ちゃん、この雨風の中、病院を飛び出すように慌てて帰って行ったの。なんか顔色も悪かったから心配で――』

 徒歩10分とはいえ、かなりの風雨だ。慌てた暁斗は電話を切った後、迎えに行こうと着替えもそこそこに部屋を出てエントランスで茫然と立ち尽くす凛音を見つけたのだ。

 子供のように泣きじゃくる彼女を抱きしめながら暁斗は心から『ずっと傍にいる』と言った。
 人の命を助ける仕事をしているが、自分の命を懸けても誰かを守りたいという気持ちになったのは生まれて初めてだった。

(今まで罪悪感や責任感で張りつめて生きて来たのなら、これからは俺の傍でゆるやかで幸せな笑顔を咲かせて欲しい)

 自分の為に涙し、感情を露わにしてくれた凛音への愛しさが止められず、その夜は一晩中彼女を離すことが出来なかった。

 妻を何度も高め、抱きながら、暁斗は思った――誰よりも何よりも君を愛していると。
 そして、抱きしめあったまま、夫婦は初めて同じベッドで目覚めた。
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