離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 福原は医師として最善を尽くしてくれ、当初3ヶ月と言われた母の余命が、結局半年伸びた。
 その間に一時退院して家族の時間も持つことが出来た。母は感謝しながら穏やかに旅立っていった。
 パン屋を営む父の手伝いをしながら、子供たちの世話も家事も行う働き者で優しい母だった。
 
 母を大層愛していた父は『お母さんの為にもお母さんが大事にしていた米田パンをもっと大きくする』と言って、悲しみを振り切るようにパン作りと業務拡大に励んだ。

 ちょうど改修工事のタイミングだった九王総合病院内の外来ロビーの一角にパンとコーヒーを販売する小さなをショップを構えさせて貰った。
 これも福原の口利きだった。凛音や遼介も学校に通いながら販売の手伝をしたこともあった。
 
 他にも近隣の企業内の売店でパンを委託販売するなどして売り上げも上々、特に父の作るメロンパンは美味しいと評判で、看板商品だった。
 
 ――しかし、4年前、父は突然倒れ、帰らぬ人となってしまった。本当にあっけなかった。
 その時、凛音は大学3年生、遼介は同じく1年生になったばかり。

 昔から勉強が得意だった遼介は母の闘病を切っ掛けに、少しでも病気で苦しむ人を助けたいと医者を志し、猛勉強の末、現役で都内の有名大学の医学部に入学したところだった。

 合格を知った父は嬉し涙を流して言っていた。『お父さんは幸せだ。学費は何とかするから遼介は立派な医者になれ』と。
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