離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 今まで趣味というものが無かった凛音はこれからパン作りを楽しんでみようと思っている。切っ掛けを与えてくれた暁斗には本当に感謝していたる。

 彼との暮らしは相変わらず順調だ。順調すぎて逆に怖くなるくらいだ。

 台風が去った朝、目覚めた凛音は暁斗に抱きしめられている事に気が付いて驚いた。
 今までは何度肌を重ねても、目覚めるのはそれぞれの部屋のベッドだったのに。

「夜中の呼び出しもあるし、君を起こしたくなかった。それに、そもそもひとりで寝た方が落ち着くと思っていた――でも君と一緒だと逆によく眠れるんだな」

 凛音が遠慮がちに聞くと暁斗はそう答えた。
 以来ふたりは暁斗の部屋で一緒に眠るようになった。彼の帰宅時間はまちまちだし、確かに寝た後に病院から呼び出されることもある。でも短い時間でも夫の温もりを感じる事が出来た方が凛音は安心出来た。

 普通の夫婦のように過ぎていく日常がこの上なく幸せだった。願わくば、この幸せが少しでも長く続きますように――そう思っていた。

「後は暁斗さんと、洋一郎先生にも届けて来よう」

 博美にクロワッサンを渡した後、医事課を出た凛音は2つの紙袋を持ち外科の医局に向かう。暁斗は家に帰れば食べれるが、焼きたてを仕事の合間に少しでも食べて貰えればと思っている。
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