離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
「えー、僕には無いの?」
「ちゃんと、洋一郎先生の分も作ってきましたよ」

 やったーと喜ぶ福原に笑って紙袋を渡しながらも、凛音は美咲から刺すような視線を感じていた。


  
 暁斗に聞いたところによると、美咲は彼の大学時代の同期で年齢も同じく32歳。
 実家は地方都市の大病院を経営している。暁斗と共に山海大学の医学部で学び成績は優秀、研修医を終えた後、アメリカで最新の医療技術を身に着け5ヶ月前に山海大学に戻って来たのだが、今回彼女の希望もあり九王に赴任することになったらしい。

 暁斗の話を思い出しながら出勤した凛音は更衣室でロッカーの扉を開けた。

(はー、あんな、完璧な女性っているんだな)

 美咲が九王の心臓血管外科の医師として着任してから1週間も経っていないが、早くもその有能さは凛音の耳にも届くほどになっていた。

 着任早々、難しい症例の緊急手術を成功させた腕は一流で、アメリカで培った経験を武器に、時にはカンファレンスで暁斗と対等に意見をぶつけ合う事もあると言う。
 仕事には厳しく看護師たちには恐れられているが、患者に対しては女性ならではの心配りも出来るらしい。

(自信に満ちていて、患者さんに頼られて、暁斗さんにも一目置かれて……すごいなぁ)
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