離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 そんなことを考えながら凛音が最近暁斗からプレゼントされた薄手のショールを首から外そうと手を掛けていると、更衣室のドアが開く音がして、入り口の方から若い事務職員が話す声が聞こえてきた。

「えー、それホントなの?」
「前の派遣先の山海で聞いたんだから間違いないわよ」
「まぁ、確かに剣持先生と寒川先生ならお似合いだよねー、どうゆう馴れ初めなわけ?」

 凛音の手元がビクリと止まる。凛音のロッカーの位置は彼女たちから死角になっており、更衣室には誰も居ないと思ったのだろう。
 彼女たちは着替えながら遠慮のない会話を続ける。

「大学時代からふたりは付き合っていて、結婚する約束をしてたんだって」
「えーでも結婚しなかったんでしょ」
「寒川先生はどうしてもアメリカに行きたくて、そのまま自然消滅みたいになっちゃったんだけど、日本に戻って来た寒川先生が剣持先生を諦められなくて今回九王に来たみたい」
「なにそれ、ドラマみたい!でも、剣持先生結婚しちゃってるわよね」
「でもさぁ、そういう許されない恋っていうのも燃えるんじゃないのー」
 
 その後も彼女たちは暫く盛り上がっていたが、凛音はショールを掴みながら彼女たちが更衣室を出るまでじっと息を潜める事しか出来なかった。
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