離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
その日の外来は忙しかった。受付の応援や会計のフォローをしたりと一日中走り回り、凛音は余計な事を考えないでいられた。
しかし、病院を出た途端、心は深く沈んでいく。トボトボとマンションに向かって歩きながら、凛音は初めて美咲に会った時の事を思い出していた。
(やっぱり寒川先生のあの視線は――嫉妬だ)
凛音が暁斗の妻だと知った途端、彼女は凛音に対して刺すような視線を投げて来た。
それは、昔の恋人で今も好きな相手を自分から奪った女だからだろう。
(もし、今朝聞いた話が本当なら無理もないかもしれない。アメリカに行っている間に将来を約束したと思っていた相手が他の女と結婚していたんだから)
そうだとして――暁斗はどう思っているのだろう。
彼は自然消滅したと思っていたかもしれないが、美咲が日本に帰って来たのは凛音と結婚した1か月後。もし、美咲がもっと早く日本に帰っていたら、自分と契約結婚するのでは無く、彼女と本当の結婚をしていたのではないだろうか。
そこまで思い至ると、凛音は胸が詰まり、あろうことか吐き気のような気持ち悪さまで感じてしまう。
「うっ、だ、ダメダメ!噂を鵜吞みにして勝手に判断したら。こういう事はちゃんと本人に確認しないと」