離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 ボンヤリしてつい勤務先の医事課のある3Fのボタンを押してしまったらしい。しかも反射的に降りてしまった。

(以前も同じような事があったような……悩み事があるとボンヤリする癖、直さなきゃな)
 
 溜息を付きながら回れ右をしてもう一度エレベーターに乗り込もうとすると、外来のアトリウムの方から何やら足音が聞こえて来た。

「え……こんな時間に?」

 もう21時になろうと言うのに外来に人がいる訳が無い。凛音の体に一気に緊張が走る。

(戻って警備員さんを呼んだ方がいいかも)

 凛音は霊的なものはあまり信じない方で、外部侵入者の方がむしろ怖い。
 音を立てないように1階の警備室に行こうと考えたその時、凛音の耳に入って来たのは聞き慣れた声だった。

「こんな所に呼び出して、何の話だ?まあ、大体分かってはいるが」

(暁斗さん?)

 声の主は暁斗だった。こんな時間にこんな所で何をしているんだろうと、凛音は声のする方へ向かう。
 そして、目に入って来た人物に胸がドクリとする。

(……寒川先生だ)

 外来の検査待合のスペースに暁斗と美咲が立っているのが見えた。
 もちろんこんな時間に外来の検査など無く、ふたりの他に誰も居ない。ポツポツと薄暗い照明がついているだけだ。
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