離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
(まずはちゃんと産婦人科で見て貰わなきゃいけないよね。産婦人科の結城(ゆうき)先生はものすごくいい先生なんだけど、まさかウチを受診する訳にはいかないし)

 せっかく都内でも腕がいいと有名な産婦人科医を抱えている九王なのに、残念でならない。
 早めに休みを取ってどこかの産婦人科を受診しなければと凛音は思った。

 その日の午後は診療報酬業務のチームの応援に入り、審査支払審査機関に提出するレセプト点検作業に追われた。
 膨大な患者数を持つ九王総合病院では紙で出力せず、電子によるチェックを行っているが、病名に対する検査項目の記載内容などの間違いの検出は、人の知識に頼っている所が多い。
 凛音は集中してパソコンに噛り付いていた。
 
 ようやく自分のノルマが終わった所でパソコンの時刻表示を見ると退勤時間まであと1時間ほどになっていた。

 パソコンから目を離して、ふう、と息を吐く。集中し過ぎて体がガチガチに固まっていた。

 凛音は立ち上がると医事課共有のキャビネットの上に置かれたB4サイズの紙の束を持ち、他の事務員に声を掛けた。

「これの貼り替えに行ってきちゃいますね」
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