離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
夕食を作り終えた凛音はエプロンを外し、預金通帳を手に現実を再確認する。
当たり前だが、何回見ても数字は変わらない。
福原にも遼介にも『お父さんが遺してくれたお金があるから大丈夫』と言って来たが、医学部の学費は高額だ。実際の所、貯金は底をつきかけていた。
父が生きていたら借金はできたかもしれないが、25歳でただの病院事務職員の自分にまともにまとまったお金を貸してくれるまともな所は無い気がする。
近しい親戚も居ない中、相談できるのは福原くらいだが、ただでさえ父が亡くなった時にサポートしてもらったり、凛音の就職の事で迷惑を掛けてきているのだから、これ以上彼を煩わせる訳にはいかないと思っていた。
遼介は今までも凛音に気を使って利息無しの奨学金をもらって受け取ってくれているが、限度があるし、これ以上彼に借金をさせたくない。
それに、弟に学費が払えなくて困っていることが知られたら、凛音が無理をしてきた事も、4年前に嘘を付いた事もばれてしまう。それで大学を辞めるなどと言い出したら大変だ。それだけは避けたい。
「『まともじゃない所』で借金をするか、やっぱり夜の仕事をするくらいしか無いのかな……早いうちにいろいろ調べてみなきゃね」
凛音は思わず小さなチェストの上に飾られた写真立ての中の両親に呟く。実際本人たちがいたらショックで卒倒するような娘の言葉だろう。